はじめに
1967年に沖縄県立中部病院の卒後医学臨床研修事業が開始されました。研修医同窓会は研修開始20周年記念式典の挙行にあわせ誕生いたしました。設立目的は中部病院の研修事業を支援し、研修終了生相互の親睦を図ることでした。終了生がすでに1000人を越え、大所帯となったこと、研修事業をさらに強固に支援するとのことから、2018年、一般社団法人格を取得いたしました。 ここに「研修医同窓会の歩み」を紹介し、今後同窓生はもとより、同窓会の目的に賛同していただける方々のご理解とご支援を賜りたいと思います。
中部病院で臨床研修が始まった経緯
1945年6月23日沖縄戦は終結いたしました。軍民合わせて23万人の犠牲者をだし、土地は原形を留めない破壊をうけ、医療も文字通りゼロからの復興でした。それは戦争の最中から民間負傷者を米軍キャンプに収容する形から始まり、終戦後は生き残った沖縄の医療人に引き継がれていきました。世情が落ち着いて生活は上向いてきましたが、医師数や病院数など医療に係わるあらゆる分野が不足し、これらの充足が喫緊の課題となりました。医師に関しては医育機関の医学部がないことや国内外から医師の移住も望めないことから、琉球政府は自前で、地域医療を担う人材を育成し確保すべく、〝国費自費学生制度〟を1953年から沖縄が日本復帰するまで実施いたしました。これは沖縄で学生を選抜し、内地留学といった形で国内の医学部に送り込み、医師を養成するというものでした。
毎年十数名から六十名ほどの卒業生があり、医師数は毎年増えていくことが期待されました。しかしながら卒業生の沖縄への帰還率は年々低下し、送り込んだ学生の過半数が帰還せず、医師の充足はなかなか進みませんでした。専門分野を極めてから帰沖するという理由で帰還せず、専門医になったらなったで、自分の専門分野を生かすソフト・ハードが揃ってからと、帰還を先延ばしにする輩のいる傍ら、直ちに帰る気持ちはあるが沖縄での研修に不安があるので躊躇している者も多いことから、これらを受け入れる方策として臨床研修事業を開始すべきとの議論がなされました。1966年 臨床研修事業計画の予算が確保され、1965年に竣工した新築の中部病院で、8名の研修医を迎えて1967年から臨床研修が始まりました。
臨床研修制度が始まりどう変わったのか
研修開始は当時厚生省の研修病院実施要項を満たさない部分も多々あり、研修医募集に応じる卒業生も少なく、開始直前まで関係者は苦労しました。しかしながら一旦開始した研修事業は順調に事を進め、当初よりゼネラル教育を重視したスーパーローテーションプログラムが全国からそのユニークさに注目をされ、応募者が募集人数を大きく上回るようになり、1976年から採用試験を実施することになりました。また、1973年からいわゆる後期研修(専攻医研修)を開始し、屋根瓦方式の指導体制も早々と構築されていきました。1983年から後期研修終了者を離島勤務に派遣し、地域で研修し身につけた実力を発揮してもらっています。この研修制度の結果、中部病院では8割、他の県立病院では5〜4割が中部病院臨床研修修了生がスタッフとして勤務しています。また、中部病院臨床研修修了生は県内研修病院に分散し、そこで研修医を指導していることから、全国の医学生から〝沖縄は臨床研修の聖地〟との評価を受け、若い医師が続々と沖縄に押し寄せ、とうとう医師数は全国の平均を上回る状況になりました。よき医療とよき教育があれば、地方でも医師を集めることができることを示せたと自負しています。
同窓会発足と活動の内容
中部病院で研修事業がスタートして2017年で50周年となり、県を挙げての記念式典と記念事業を実施しました。過去には1987年4月18日に20周年記念式典、1992年4月25日25周年記念式典を行っています。同窓会は20周年の際に当時すでに修了生が300名を越えるに及んでいました。研修事業へ外部から支援を行い、病院を離れ全国に分散した修了生の旧交を温める場として同窓会をと、研修医一期生が音頭をとり設立されました。活動資金としてとして会費を徴収、中部病院の研修事業の支援として 中部病院救急マニュアルの配布、優秀研修医・優秀指導医の表彰、最多退院時要約記載者表彰、ハワイ大学関連病院実習への支援金支給、同窓会員主催学会支援、メーリングリストによる会員同士の情報交換、3年に1度の総会開催と親睦会などを行ってまいりました。
法人化への道
ここ10年来、同窓生の間では研修修了生が1000名を越える大所帯となり、「毎年百万単位のお金の出入りがあり、経理もアバウトでは困るだろうし、また、活動資金となる会費も一層増えるのであれば、研修事業の支援をさらに活発にかつ大々的に行うべき」との意見が出てまいりました。そこで2017年の臨床研修制度50周年記念式典にあわせて、任意団体としての旧同窓会を解散し、翌2018年に一般社団法人格を獲得し、旧同窓会のポリシーは引き継ぎながら、同窓会は新たな道を歩み始めました。
おわりに
臨床研修は1967年の開始した当時から比べると大きく変貌しています。少子高齢、総人口減少、働き手の減少、地域や都会の過疎化、働き方改革等 大きく変動する社会的事象は医療も変容を迫られています。研修のあり方も同様です。同窓会は私たちのルーツである中部病院臨床研修の充実を支援することは元より、沖縄県全体の研修や医療の充実発展にも寄与していきたいと念じています。