Okinawa Remote Islands-Practice Based Research Network: 10年間のあゆみ [42期生 金子 惇]

金子 惇
横浜市立大学 大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻・医学部 臨床疫学・臨床薬理学講座 准教授
沖縄県立中部病院 42期 プライマリ・ケアコース

42期生の金子 惇(まこと)です。今回はOCHプライマリ・ケアコースの皆さんと一緒に2014年から続けてきた臨床研究ネットワーク“Okinawa Remote Islands-Practice Based Research Network (以下Islands-PBRN)”がもうすぐ10周年を迎えるということでその活動を紹介させて頂きます。

PBRN: Practice Based Research Networkとは何か?

私はOCHで初期研修+後期研修1年間の3年間勤務したのち、後期研修の一環として北部の伊平屋島にて3年間勤務しました。島での診療はとても楽しく、「離島医療の良い点を研究としてアウトプットしたい」「離島でも研究が出来たり勉強を継続出来たりする環境があれば、島医者を目指す人のモチベーションに繋がるのでは」という思いを持つようになりました。島にいる間に慈恵医大の「プライマリ・ケアのための臨床研究者育成プログラム」という遠隔で臨床研究を学べるコースに参加したことがきっかけで、離島勤務終了後に同大学の「地域医療・プライマリケア医学」という博士課程に進学しました。そこで東京の診療所で行われていたPractice Based Research Network (以下PBRN)に初めて出会いました。
PBRNはその名の通り診療所間での研究ネットワークを指す言葉で、プライマリ・ケアの現場である診療所からエビデンスを発信するための連携のことです。一般的に、1か所の診療所では研究参加者数が十分確保できない、結果がその診療所の特性に影響されてしまうなどの問題があり、一般化可能性が低くなり研究としての価値が落ちてしまいます。そこで、複数の診療所で連携してPBRNを作って、参加者を募りデータを集めることでより質の高いエビデンスをプライマリ・ケアから発信することができます。また、単に研究を行うだけでなくその研究に参加することで研究テーマについて勉強する機会に繋がり、診療所の質改善にも繋げていくことができます。研究手法としても生涯学習としても有益なPBRNという仕組みが、私が東京で所属した診療所では実際に行われており、その運営に関わることができました。具体的には

・複数の診療所が協力できる研究テーマの設定
・データ収集のためのプラットフォームとデータチェックの仕組みづくり
・研究の進捗報告
・研究手法に関する勉強会

などを行っていました。私は大学院生かつ診療所に勤務する立場だったため、データをチェックしたり収集のリマインドを出したりする大学側の立場とデータを実際に入力する現場側の立場、大学と診療所群が連携してテーマや解析の方向性を考える運営会議への参加など様々な立場でPBRNに関わることができました。その中で、「これは沖縄の離島でも同じことができるのではないか」と思う様になりました。

Islands-PBRNのはじまり

当時、北大東島にいた森英毅先生に電話して「PBRNをやりたいから一緒にやって下さい」と伝え、プライマリ・ケアコースの先輩である安谷屋亮先生にはデータ収集のプラットフォーム作成をお願いしました。当時離島に赴任していたメンバーに声をかけ、PBRNで出来ることや参加することのメリットを伝えました。その中で月1回のオンラインミーティングを行い

・多施設共同研究の進捗報告
・専門医取得に研究発表が必要なレジデントの支援
・研究手法に関するミニレクチャー

を軸とするPBRNがスタートしました。米国のAgency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)がPBRNの登録を受け付けており、早速登録しました。私の記憶では当時日本から登録されていたPBRNは2つ(うち1つは当時所属していた東京のPBRNでした)しかなく、我々のIslands-PBRNは日本で3つ目のAHRQに登録されたPBRNとなりました。事務局などがないため、登録に必要な住所や電話番号は自宅のものを使っていました。1 図1がAHRQの登録証です。

図1. AHRQの登録証

Islands-PBRN発の研究

この様にして始まったIslands-PBRNですが今日までにそこからいくつかの研究が発表されています。個人のプロジェクトとしての研究もあるのでどこまでをIslands-PBRNのアウトプットとするかは難しいのですが、Islands-PBRNメンバーによる多施設共同研究と私が関わった沖縄の離島での研究論文を表1にまとめました。

表1. Islands-PBRNの活動に関連して生まれた主な論文

多施設共同研究

発表年 発表雑誌 タイトル
2019 Journal of Rural Health Associations of Patient Experience in Primary Care With Hospitalizations and Emergency Department Visits on Isolated Islands: A Prospective Cohort Study2
2019 Family Practice Gatekeeping function of primary care physicians under Japan’s free-access system: a prospective open cohort study involving 14 isolated islands3
2019 BMJ Open Admissions for ambulatory care sensitive conditions on rural islands and their association with patient experience: a multicentred prospective cohort study4

筆者が関わった沖縄の離島に関する研究

発表年 発表雑誌 タイトル
2016 日本プライマリ・ケア連合学会誌 高次医療機関へのアクセスが制限された地域での ICPC-2 を用いた年齢別の受診理由及び健康問題に関する後ろ向きコホート研究5
2017 BMC Health Services Research The ecology of medical care on an isolated island in Okinawa, Japan: a retrospective open cohort study6
2017 日本プライマリ・ケア連合学会誌 沖縄県離島の健康問題について:25年間に起こった変化7
2017 Journal of Rural Medicine Effects of practicing in remote Japanese islands on physicians’ control of negative emotions: A qualitative study8
2017 へき地・離島救急医療学会誌 離島の1人診療所で必要なコンピテンシーに関する質的研究~若手医師が直面した課題から~9
2018 BMC Family Practice Challenges in providing maternity care in remote areas and islands for primary care physicians in Japan: a qualitative study10

中でも参考文献3は14離島診療所の協力を得ることができた非常に思い出深い研究です。具体的には、14離島の全住民を対象として“ecology of medical care model”と呼ばれる 1000人当たり・1か月当たりの受療行動(診療所受診、病院受診、救急室受診、入院)を図示する方法を用いて離島住民の受療行動と日本全国の受療行動を比較しました。3 図2に結果を示しますが、ほぼ全住民が診療所でのトリアージを受けて島外へ紹介される離島では診療所受診は多いものの病院受診は少なく、プライマリ・ケア医がgatekeeperを果たすことで高次病院の負担を軽減しているのではないか、という結果を示すことができました。3これは1か所の診療所が住民の島外紹介のデータを把握しているから実現可能な研究であり、参考文献2、4でも

・保健師さんと連携することで高い回答率を得ることができる
・入院、島外搬送などの重要な情報が把握しやすい

という離島診療所の特色にあった研究テーマを選択しました。

図2. 14離島と日本全体の1000人当たり・1か月当たりの受療行動の比較

現在の活動

離島診療所医師は数年ごとに入れ替わるので、自分が島を出て数年たつと一緒に働いたことがある後輩は異動し新たな医師が赴任してきます。人が入れ替わるたびに、研究に対するモチベーションや知識も変化します。なるべく島にいる先生達のニーズにあった形でPBRNを継続したいと考え、金子と森先生が運営をする形から島で勤務している医師に運営をお願いする形に変更しました。その上で毎年、島にいる医師同士で話し合って貰い、その年その年のニーズに合わせて内容を作っていきました。現在もその形で継続しており、これまで70名の方がメンバーとして参加しています。PBRNメンバーで大学教員になった方や大学以外の場所で研究を継続されている方もいて、その方が現役のPBRNメンバーの指導に当たって下さっている様子を見ると非常に嬉しいですし、屋根瓦教育の伝統を感じます。

今後について

上記表1に掲載したもの以外にもまさに進行中の離島発の研究が複数あり、今後も少しずつ沖縄の離島医療に関するエビデンスが蓄積されていくことと考えています。また、PBRNという仕組み自体が日本のプライマリ・ケア領域で注目されているものの実践しているところは少なくノウハウも十分いきわたっていないというのが現状です。したがって、Islands-PBRNは他の多くの地域が参考にするネットワークでもあります。自分自身も「中部地方や北陸地方でPBRNを立ち上げたいのだが沖縄でどうやっているか教えてほしい」との要望がありお話をしたこともありますし、2023年12月に行われるPCR connectというプライマリ・ケア系の学会ではIslands-PBRNメンバーの一人である石坂真梨子先生から全国のへき地医療研究に関心がある皆様にその様なお話をして頂く予定となっております。今後も島の医療を支える仕組みの一つとして、島に赴任される先生や島民の皆様にとって意義がある活動として行っていければと考えております。また、自分をはじめ遠隔で研究指導に関わらせて頂いているメンバーには中部病院から「沖縄県立中部病院特別指導医」という称号を頂いております。今後の持続可能性のために、研究資金や英文校正、論文掲載にかかる費用についても支援が受けられる仕組みがありますと若手の皆様の研究の幅が広がるのではと思っております。
最後になりますが、発足当初からこの活動に一緒に取り組んで下さっている森英毅先生(現 長崎医療センター)と常に温かくサポートして下さっている自分のメンター本村和久先生(現 まどかファミリ―クリニック)はじめIslands-PBRNにこれまで関わって下さった皆さん、同じく自分のメンターであり東京のPBRNを参考にして沖縄でPBRNを立ち上げることを快く支援して下さった松島雅人先生(東京慈恵会医科大学)並びに藤沼康樹先生(CFMD東京)、東京のCFMD-PBRNのリーダーである渡邊隆将先生をはじめとするCFMD-PBRNの皆さんに心からの感謝を申し上げます。

参考文献

  1. Agency for Healthcare Research and Quality. Okinawa Remote Islands-Practice Based Research Network. https://www.ahrq.gov/ncepcr/communities/pbrn/registry/okinawan-remote-islands-practice-based-research-network.html?fbclid=IwAR0nnz0MBf3qZ2tD2Aj8aFOGjRQsBauvceRp2CzuXMhNZV_CrIqr6j67rO0
  2. Kaneko M, Aoki T, Mori H, Ohta R, Matsuzawa H, Shimabukuro A, Motomura K, Inoue M. Associations of Patient Experience in Primary Care With Hospitalizations and Emergency Department Visits on Isolated Islands: A Prospective Cohort Study. J Rural Health. 2019 Sep;35(4):498-505.
  3. Kaneko M, Motomura K, Mori H, Ohta R, Matsuzawa H, Shimabukuro A, Matsushima M. Gatekeeping function of primary care physicians under Japan’s free-access system: a prospective open cohort study involving 14 isolated islands. Fam Pract. 2019 Jul 31;36(4):452-459.
  4. Kaneko M, Aoki T, Funato M, Yamashiro K, Kuroda K, Kuroda M, Saishoji Y, Sakai T, Yonaha S, Motomura K, Inoue M. Admissions for ambulatory care sensitive conditions on rural islands and their association with patient experience: a multicentred prospective cohort study. BMJ Open. 2019 Dec 29;9(12):e030101.
  5. 金子 惇, 松島 雅人. 高次医療機関へのアクセスが制限された地域での ICPC-2 を用いた年齢別の受診理由及び健康問題に関する後ろ向きコホート研究. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2016;39 (3): 144-149.
  6. Kaneko M, Matsushima M, Irving G. The ecology of medical care on an isolated island in Okinawa, Japan: a retrospective open cohort study. BMC Health Serv Res. 2017 Jan 14;17(1):37.
  7. 太田龍一, 金子 惇. 沖縄県離島の健康問題について:25年間に起こった変化. 日本プライマリ・ケア連合学会雑誌 2017;40(3): 143-149.
  8. Ohta R, Kaneko M. Effects of practicing in remote Japanese islands on physicians’ control of negative emotions: A qualitative study. J Rural Med. 2017 Nov;12(2):91-97.
  9. 柴田綾子、金子惇、井上真智子. 離島の1人診療所で必要なコンピテンシーに関する質的研究~若手医師が直面した課題から~. へき地・離島救急医療学会誌 2017; 15: 16-22
  10. Shibata A, Kaneko M, Inoue M. Challenges in providing maternity care in remote areas and islands for primary care physicians in Japan: a qualitative study. BMC Fam Pract. 2018 Jul 18;19(1):114.